東京地方裁判所 昭和37年(ワ)1221号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実〕原告は昭和三一年一月一一日訴外今しげから本件土地を買い受けて所有権を取得し、同日所有権移転登記手続を経た。一方、被告中野正三は昭和二一年五月一日から本件土地を建物所有の目的で賃借し、その上に本件建物を建築所有していたが、その所有権保存登記を欠き、昭和三一年一月二三日はじめてその登記を経た。原告の土地所有権に基く本件建物収去、土地明渡しの請求に対し、被告らは権利濫用の抗弁を主張したが、この点について判決は、次のような事実を認定して、原告を肯信的悪意の本件土地取得者なりと判断し、被告正三は右賃借権をもつて原告に対抗しうるとして、原告の請求を棄却した。
〔判決理由〕……によれば、本件土地は、当初池田光男の管理するところであつたが、昭和二七年四月ごろから、友亀(原告の父)が池田にかわつた管理人となり、本件土地の前所有者等のために、本件建物まで来て被告正三にその支払方の依頼をうけた被告藤助から本件土地の地代を受領していたこと、それは昭和二九年一〇月ごろまで続いたこと、したがつて当然友亀は、被告正三が本件土地に本件建物を所有し、被告藤助、被告正三の弟夫婦が本件建物に居住していることも熟知していたこと、原告は友亀の子であり、友亀とその生活を共にし、原告、友亀共に本件土地の前所有者今とは懇意であり、原告もまた友亀が被告正三の賃借している本件土地を管理していることを知つていたこと、そして今から本件土地を買つてくれるよう申入れがあつたので、友亀は、本件土地の登記を調べる時に、本件建物の登記の有無をも調べ、本件建物に登記のないことを知つたうえで、原告に買うように勧め、原告自身も、本件土地まで行つて被告藤助らが本件建物に居住していることを調査したこと、本件土地は国電神田駅に近く、総坪数二二坪七合五勺あり、時価は坪あたり最高約二〇万円もするほどの土地であつたのに、七〇万円(登記料、前所有者今の本件土地に関する税金の滞納分の支払をも含めて一〇〇万円)という時価より格段安い価格で原告が買入れていること、被告らには、今から本件土地を買つてもらいたい旨の申入れがなく、また今から本件土地を原告に売却した旨の、あるいは原告から本件土地を買つた旨のなんらの通知もなく、原告が本件土地を買受けた直後である昭和三一年一月一六日付の内容証明郵便で突然立退かれたい旨原告が通知してきたことがそれぞれ認められ、……以上認定した事実によれば、本件土地は、かつて本件土地について地代取立等の管理をしていた友亀の子であり、被告正三が本件土地をその前所有者今から賃借し、本件建物を建築所有し、被告藤助が本件建物に賃借居住していることを熟知していた原告が、被告正三が本件建物について所有権保存登記をしていないのに乗じて、時価より格段に安い価格で買受け昭和三一年一月一一日その登記をし、直ちに被告らに明渡を求めてきたものであるから、原告は本件土地の背信的な悪意の取得者というべく、被告正三が本件賃借権につき対抗要件を具備しないことを主張し得ないものと解するのが相当である。(田嶋重徳)